彼等の脚にはいている長靴《サパキー》にとれ。詩的美文は彼等を魅するどんな力も持たない。
彼等の手は遅い。なかなかなぐらない。口は早い民衆だ。彼等は多勢の人が自分に注目するから、つい口を噤《つぐ》むという日本人の心持は全然知らぬ。自分の主張を一人でも多くの人に聴いて貰いたいからこそ話す。熱心になかなかうまく話す。又、民衆は言葉に対する一種の馴れと敏感さとをもっていて非常によい聴きてだ。人混みの中でもいつかしら際だった一つの声の云うことは聴いていて、野次る。或は賛成する。――批評があるのだ。これは、モスクワ市井生活の愉快な特徴の一つで、革命前は人口の約半数読み書きを知らなかった民衆が、いかに言葉で訓練されて来たか、言葉をふるいわける才能を磨かれて来たか、興味がある。若しロシアの民衆が昔からの一種特別なこの才能を持たなかったら、革命前後の状態は一九一七年に在ったようには無かったろう。それが音楽的にふるえるとシャリアピンに成りそうな大声でロシア的雄弁を爆発させるのを観て、呑気だと批評するのを聞く。而し、呑気の内容が全然ここでは違う。日本の呑気は、彼の心の表面に万事を軽く受けることである。或は
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