ロシア民族の持っている深さ、大きさは、彼等の濃い髯とともに、凡そそれが人間の心にあり得るものなら、どんな聖きものも、どんな醜怪なものも、極限まで発育させる気味悪い程のゆとりを持っている。それだけ話してみると本気にし難いような専制にしても、それが存在し得た限りで必ず民族の搭載量以上には出なかったのだ。――何ともいえぬロシア的ゆとりで、専制者の生活が各人の生活を底まで引かき廻してしまわぬうちは、一切のパンと彼等の魂《ドゥシャー》に忍耐ののこる余裕のあったものは、誰が琥珀張の室で誰といちゃついていようが、彼等はこせこせしなかった。「俺のことではない」そして、根強く生きつづけて来たのである。
いよいよ魂《ドゥシャー》が日夜叫びつづけ「我慢出来ない」時が来た時、彼等はどんな工合に背中の重荷を投げ棄てたか? 世界の人間が驚愕して髪の毛を逆立て、やがて一斉にわめき出した程投げ棄てた。ロシア人は、「我慢出来ない!」とうめいて或る状態の中から立ち上った時が最も恐ろしい。彼は飛躍する。彼の最大の可能でどっちかへ飛躍する。神へ向ってか、悪魔へ向ってか。民衆は天真《ナイーブ》で自分達のうちにあるこの天才と恐
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