の紋章が林立している。それらは叫喚に似ている。見廻すと、赤い広場を遠巻きにして殆ど八方の空に十字架がそびえている。十字架はこの広場で平和を表していない。恐怖を語っている。民衆の恐怖と支配者の魂にあった恐怖を示している。民衆はつめかける、海のように。首切台でまさかりはもう砥がれた。血は雪に浸みるであろう。神よ! 我等の父|皇帝《ツァー》よ! 慈愛深き皇后《ツァリーッツァ》よ! 城壁は厚い。内なる人は見えない。門は閉る。総てに対する慰安と答えとは、黄金の十字架と鷲――坊主と兵士が与えるであろう(?)
 我々は革命博物館に於けるより数倍の現実的効果で、一九二八年の赤い広場に前時代の史的実証をみるのである。〔十四字伏字〕。〔六字伏字〕。〔十七字伏字〕。〔六字伏字〕。〔六字伏字〕。〔二字伏字〕。(ツァーはクレムリンの城壁の上から幾本もの金の十字架をそびえさせて、人民の訴えから身をかくしていた。日本の権力者は、その皇居とされている地域のぐるりを封建時代からの濠でめぐらして人民と自分達とをへだてている、という意味が書かれていた。今日伏字を埋めることはできない。著者後記)濠の柳が水に映る。お濠の石垣か
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