ラースナヤ・プローシチャジ》へ出る。
 広場の雪は平らに遠く凍っている。クレムリンの城壁の根に茶色のレーニン廟がある。国家的祝祭の時使うスタンドが出来ている。今そこは空っぽだ。レーニン廟の柵の内で雪は特に深い。常磐木の若木の頭が雪の中から見えるところに番兵が付剣で立っている。入るのか入らないのか柵の附近の人だかりの外套は黒い。――クレムリンの城門の大時計は、十五分毎に雪の広場の上に鳴り、赤白縞の一寸しゃれた歩哨舎があった。そこの門から城内を見ると闊然とした空ばかりある。
 ――ここの景色は変だ。印象的に空ばかり見えるクレムリンのこの城門は、何故一直線に広場の首切台に向って開いていなければいけないのだろう。首切台は、円形で高い。ぐるりを胸壁《パラペット》がとりまいている。一方に出入口があって、石段から、斬られる人間が首をのばした小さい台と、鎖のたぐまりが雪に見える。プガチョフ以来、いくつもの人間の首がこの台の上で、皇帝《ツァー》のまさかりで打ち落された。裁きは「神の如く」この空なる門から首切台まで下されるという象徴か。
 クレムリンの城壁からは、赤い広場と首切台に向って黄金の十字架と皇帝
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