哥!(一どきに下って)二十《ドゥワツツアッチ》哥! ダワーイ!
 腕に籠を下げた人出の間を、水色制帽の技師が歩く。犬が歩く。子供が薬品店の飾窓の前の手すりにぶら下って粗製 Pessary を見ている。
 ジグザグ歩きをして、私はニキーツキー門《ヴァロータ》まで来た。一人のりんご売が丁度私の前で彼の商品を並べなおしていた。彼の背後から巡査が来た。巡査は何か云いながら、外套のポケットから右手を出し、りんごの一杯並んでいる小判型の大籠を無雑作に片方のとってで持ち上げた。りんごはきたない雪の上へころがり落ちそうになった。商人は慌てて自分で籠を上げた。――巡査は再び両手をポケットへ突込んで歩き出した。大道商人も並んで、りんご籠の重みで胸をそらせながら、親しげに巡査に顔を向け喋り、笑い、行く。――暫く歩いた時、彼等の行手を遮るようにして横丁から一台空の荷橇が出て来た。それを見てりんご売は一歩巡査をやりすごしたと思うと、いきなりその橇馬の鼻面を掠め、重い林檎籠を腹の前に抱えたなり、よたくり而も極めて手際よく、あっち側の歩道の人ごみの間へにげ込んでしまった。巡査が振り返る、車道の空間には、おっことして
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