が咲いている。コムソモーレツが、СССР流行の皮外套を着て二人来た。日本女を見て、
――|上海から《イズ・シャンハイ》――
彼らの読本には、「レーニンとリチヤン」という詩。メーエルホリド座では「|支那よ、吠えよ《リチキタイ》」。大劇場の「朱い罌粟《けし》」を皆が評判する。その中で、昔ながらの「蝶々さん」。――或は、いとも陽気な、チョンキナ、チョンキナ、チョンチョンキナキナ。長崎、横浜、函館、ホーイ!
このような情景もある。
暖い。街角の大寒暖計は六度だ。往来の雪がゆるんで、重く、歩き難い。午前の街上に日光がふりそそぎ、馬も滑りがわるいから体から湯気を立てて働いている。花屋の飾窓の氷がとけて、花が見えた。そばの壁に、婆さんと片脚ない男が日向ぼっこしている。よごれた歩道に沿って、ずらりと大道商人が肩と肩と並べている。新聞雑誌の売店《キオスク》、煙草屋、靴紐と靴クリーム、乾酪《バタ》屋、三文玩具や、糖菓《コンフェクト》、蜜柑屋《マンダリーン》。
――ダワーイ! |奥さん《マダム》、|好い《ハローシイ》、|新しい蜜柑《スウェージーマンダリーン》! 二十五《ドゥワツツアッチピャーチ》
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