ら来ている。
コスモポリタンになっている黒田礼二はブルジョア・ヨーロッパの感情でクリスマスというものをハッキリ感情するらしい。
今夜ローソクが点《とも》る樅の木を買って君達のホテルへ行くから、お茶でものませて、ということになった。
自分は夕方、紙切れを握って塩漬キャベジの匂いのする食糧販売店の減った石段をトン、トン、トンと下りて行った。
紙切れを見ては、あやしい発音でイクラを買った。漬胡瓜を買った。
ハムを買った。
黒田君の買って来た樅の木は小ぢんまり植木鉢におさまり、しかも二寸ぐらいの五色のローソクを儀式どおり緑の枝々につけている。
灯がついたら銀のピラピラが樅の枝で氷華のように輝いてキレイだ。
夜がふけて見たら、サモワールの湯気で、凍った窓にそれよりもっと綺麗な氷華がついていた。
一九二八年のクリスマスは、クリスマスということを忘れてすごした。
雪をよごして零下十二度の夜焚火をする樅の木売りも、モスクワの目抜きの広場からは姿を消した。
レーニングラードの『労働婦人と農婦』は十五万部売って、レーニングラード『プラウダ』を経済的にもりたてている。
主筆が三十六
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