七のギメレウスカヤだ。彼女には五つばかりの女の児がある。「チャンバレーン」という犬を飼っている。その児が云った。
「母さん! 樅の木|伐《き》るの可哀そうだから、いらないヨ」
モスクワ全市の労働者クラブで、夜あけ頃まで反宗教の茶番や音楽やダンスがあった。
五ヵ年計画がソヴェト同盟に実行されはじめて、教会と坊主は、プロレタリアートと農民の社会主義社会建設の実践からすっかりボイコットされてしまった。
農村で、青年・貧農・中農たちが現実に有利な集団農場を組織しようとする。農村ブルジョアの富農は反対で、窓ガラス越しに鉄砲をブチ込み積極的な青年を殺したりした。坊主をおふせ[#「おふせ」に傍点]で食わせ飲ますのは富農だ。坊主と富農は互に十字架につらまって、農村の集団化の邪魔をする。
坊主を村から追っぱらえ!
レーニンの云った通り、社会主義建設の実際からソヴェト同盟の反宗教運動は完成された。
一九二九年、坊主はXマスであった日[#「Xマスであった日」に傍点]にパン屋の入口に職業服のまんま立って乞食していた。
[#地付き]〔一九三一年十二月〕
底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本
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