一点からも、モラトリアムで本当に困るのは、やっぱり金を持たぬ多数者というこれまで政府がとって来たおなじ方向の一つなのである。
モラトリアムを肯定したとして、物価とのにらみ合わせはどうなるだろう。限界価格をきめて闇値の半分ほどにすると予定されている。そうならなくては、人民の生命は益々脅かされる。
生活必需品に対してそういう手当をする政府は、つい先頃、国鉄運賃大幅値上げをした。省線・都電の運賃値上げをして、地域によっては出もしないガス六倍、水道十二倍にすると云った。まさか、出ないガスと水道だから上ったところでメートル代だけです、というわけでもなかろう。これらは、どういう「非常措置」を受けるのだろうか。同じこの朝(二月十七日)の新聞には、推定失業者五百八十三万人と出ている。三月までに八十三万人が就業と示されているが、この新しい就業者も、職場へ行くには電車がいるだろう、省線にものるだろう。
企業家のサボタージュを罰することも、是正する力も失っているのに、労働運動取締りの四相声明を公表した当局は、「各種民需産業を振興」というが、どんな成算をもっているのだろうか。元大審院部長・元司法次官三宅
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