グ市その他では、ナポレオン侵略の一八一二年頃に比べ、全住民の四パーセントしかなかった労働者が一八九七年には十三パーセントにのぼった。少し目ぼしい各都市では、手工業的生産が近代資本主義経営へ移り、そういう小市民の暇つぶしのための絵入新聞が未曾有に発刊された。その時代の波はゴーリキイの育っているニージニ・ノヴゴロド市にも打ちよせた。祖父カシーリンが、ヴォルガの曳舟人夫から稼ぎ上げた財産、職人組合長老の位置などは、この全ロシアを動かした経済事情の変転によって失われた。手工業生産者から産業資本家にうつることが出来ず、破産没落した一つの典型なのであった。
こういう家と時代に生れ、ゴーリキイは生粋下層民の子供として人生と闘いつつ、親族に労働者として働いている者が一人もなかったため、小僧働きの環境はいつも手近な縁を辿って都市的な小市民的雰囲気に限られていたこと、その窒息的に濃い重い執こい空気の中で少年ゴーリキイが、天成の素質の健康さによって二六時中身をもがきつつ、而も成長の或る時期迄避け難くその中に縛りつけられていたことは、彼の生涯の発展のジクザクな道を知るについて十分の洞察をもって理解されなけれ
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