月十二日――私が満十歳の誕生日というので、いろんな素晴らしい贈りものを貰ってから、ちょうど三日目のことである」という華やかな雰囲気の冒頭によって始められたこの貴族の子息の幼年時代の追想は筆者トルストイの卓抜鮮明なリアリスティックな描写によって、何という別世界の日常を読者の前に展開させつつ、ゴーリキイの「幼年時代」に描かれている民衆の現実と対立していることであろう!
少年時代
――人々の中――
ヤーコブ伯父の息子のサーシャが、ニージニの町の靴屋へ勤めていた。祖父カシーリンは、母が亡くなると僅か数日で、十歳に満たぬゴーリキイをもその店の小僧奉公に出した。
カシーリンが自分でゴーリキイをその店へ連れて行った。そして、サーシャにこの子の面倒を見てやってくれと頼んだ。すると、赤っぽい上着に、ワイシャツ、長ズボンといういでたちのサーシャは勿体ぶって眉根をよせ、
「この児が僕の云うことを聞かないと困るがね」
祖父はゴーリキイの頭へ手をかけて、首を下げさせた。
「サーシャの云うことを聞くんだ。お前より、年も上だし、役目も上なんだから……」
古参ぶったサー
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