材木置場から薄板をかっ払うことであった。一日に二三枚は窃《ぬす》んで来られた。いい板一枚に家持の小市民は十|哥《カペーキ》ずつ呉れる。この仕事には仲のいい徒党があつまっていた。モルト※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]人の乞食の十歳になる息子のサーニカ。大きい黒い目をした身よりのないカストローマ。十二歳の力持ちのハーヒ。墓地の番人で癲癇持ちのヤージ。一番年かさなのは後家で酒飲みの裁縫女の息子グリーシュカ。これは分別の深い正しい人間で、熱情的な拳闘家である。
後年、ゴーリキイは当時を回想して書いている。かっ払いは「半飢の小市民にとって生活のための殆ど唯一の手段、習慣となっていて、罪とはされていなかった。非常に多くの尊敬すべき一家の主人が、『川で稼ぎ足した。』大人は自分の首尾を誇った。子供はそれを聞いて学んだ」のであった、と。
ゴーリキイの小学生生活は、断続した五ヵ月の後全くやめになってしまった。或る士官に再婚していた母のワルワーラが良人に捨てられた状態で死ぬと、祖父はその葬式を終えて数日後ゴーリキイに云った。
「さて、レクセイ、お前は俺の首にかかったメダルじゃねえ――お前のいる場処
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