の「初恋について」の中に書いている。「こうして私の初恋の歴史――その悪い終末にもかかわらず、よい歴史は終りを告げた」と。
 巨大な歴史的矛盾の運びとトルストイとゴーリキイとの交友は、いろいろの点で興味を与えるが、女について二人の態度が全く相違しているのは面白いことである。トルストイはゴーリキイとの会話の間でも、もっとも多く神と百姓と女について話すのであったが、彼は女について妥協しがたい敵意をもち、女を罰することをよろこんだ。ゴーリキイは、女をいかなる醜悪な場面、条件においても理解すべきもの、哀れむべきもの、或は愛し尊敬すべきものとして観察し、女の情慾をもある時は一つの驚くべき力として感じている。ゴーリキイはトルストイの女に対する態度に対して純真な疑問を発している。「それはできるだけの幸福を汲みとることのできなかった男の敵意であるか?」と。だがこの女に対する態度の違いの根本原因は、めいめいの階級によって接触した女の種類と形態とがトルストイとでは全く異っていたことにこそあるのである。
 一八九八年、ゴーリキイは憲兵に家宅捜査をされた後検束されチフリスへ送られた。検挙は九年前にうけたのと二度
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