ーリキイに関するあらゆる資料をあつめ、統計をあつめて大衆に無料公開をしている。労働者クラブの「赤い隅」はゴーリキイの著作と、その工場の労働者がどの作品を一番愛読したかという表などで飾られている。工場の労働通信員たちは、黙ってしかし胸をときめかしている。ゴーリキイが自分達の工場へ見学に来たら、それこそ腕一杯の素晴らしい記事を書かなければならない、と。――ゴーリキイが昔から労働者の手記、新しい作家の作品について親切な注意を払うことは知れわたった事実である。
南露からコーカサスまでを巡遊し自分の新しい建設に熱中しているソヴェト同盟の労働者・農民の嵐のような歓呼に迎えられ、ゴーリキイは感動からもやや疲れてレーニングラードへやって来た。そのころの私はレーニングラードにいて、「ソヴキノ」試写室で世界的映画監督プドフキンによって映画化されたゴーリキイの「母」を見たりしたところである。ゴーリキイには会って見たい心持を制することができなかった。彼は、いたずらに名士ずきで会う人間とそうでない人間との種類を見わけるであろう。その確信が私に勇気を与えたのである。小さい白い紙に下手なロシア語を書いて打ちあわせ
前へ
次へ
全32ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング