れた。彼はこの事件がすむと同時に、この経験を深く批判して、恥しく感じた。
 新しくよみがえった生活に対する真率な積極性によってゴーリキイは春になるとロマーシという「人民主義」の革命家と一緒に或る農村に入り、農民の自覚を促すための運動を始めた。その土地の富農たちの恐ろしい悪計によって、革命的であった農民イゾートはヴォルガ河のボートの中で頭をわられて殺され、ゴーリキイたちの店は放火され、そのどさくさにゴーリキイやロマーシももうすこしのところで殺されかけた。流刑地でのいろいろの危急の場合にきたえられていたロマーシの勇敢で適宜な防衛で命が助かった。
 村を出てからゴーリキイは裏海の漁業組合で働き、やがてドウブリンク駅の番人として働き、駅夫や人夫に地理や天文の本をよんで聞かせてやりながら、半分歩いてニージュニイにたどり着いた。その時分ロシアの辺鄙な田舎の果でもツァーの官吏や司祭らが、どんな腐敗した醜聞的日常生活を営んでいたかは、その時の経験を書いた「番人」その他にはっきり現れている。
 ニージュニイで再び急進的インテリゲンツィアの群に加わった。情勢は移って「資本論」などが読まれだしていた。然し、
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