帰された。その時、九つばかりであった彼は、同じ建物の中に住んでいるリュドミラという年上の跛足の女の子と大仲よしになった。二人は湯殿の中へかくれて本を読み合った。リュドミラの母親が毛皮商のところへ働きにゆき、弟が瓦工場へ出かけてしまうと小さいゴーリキイはリュドミラの家へ出かけた。そして「二人は茶をのんでその後で口やかましいリュドミラの母に気づかれないようにサモワルを水で冷しておいた。」そういう時、十四のリュドミラはませた口調で云うのであった。
「私たちはまるで夫婦みたいに暮しているわね。ただ別っこに寝るだけで。それどころかあたし達の方がずっとよく暮してるわ。――何処の旦那さんも奥さんの手伝いなんかしないんだもの。」
「智慧のあるおばあさん」が時々レース編をしながら仲間に加わった。そして楽しそうに云った。
「男の子と女の子と仲よくするのは大変結構さ。だがね、いたずらをしちゃいけないよ。」
「そして、彼女はいたずら[#「いたずら」に傍点]とは何のことであるかを最も平易な言葉で二人に説明した。私どもは美しく、感動深く話して貰ったので、花は咲かないうちにつみ取るものでない。匂いも実も得られなくな
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