るということがよく分った。」後年ゴーリキイは「人々の中」で更に続けて云っている。「いたずら[#「いたずら」に傍点]をしようとは思わなかった。けれどそれがために私とリュドミラとは普通誰れもが口にしないようなことについて語り合うのを妨げられたのでもなかった。語り合ったのは無論その必要があったからである。つまり、露骨な両性の関係をあまりにも頻繁に、あまりにもしつこく見せつけられて憤慨に堪えなかったからである。」
 女をも不幸の荷い手として見ざるを得ないゴーリキイの育ったこういう環境と、息子が年頃になると小間使の小綺麗なのをあてがい、社交界の身分高い貴夫人と醜行を結ぶことを出世の緒として奨励したロシアの貴族階級の腐敗の中に育ち、それと闘ったトルストイの女性の見方との間にわれわれが大きい相違を認めるのは当然の結果である。トルストイが人類を高めようとする男のよい意志に対する敵、肉体の敵として婦人を観たことは、ゴーリキイを驚かしたことであった。ゴーリキイが新進作家としてトルストイに会うようになった時、トルストイは散歩の道すがらなどでゴーリキイに話したのは農民の生活と女のことであった。トルストイは最も
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