と一しょにもう往来の子であった民衆のものの感じ方の一つが、この母と子のいきさつを描くゴーリキイの、温かくはあるが平静で、抵抗力の強い態度を引き出していると思われる。そのような言葉としてゴーリキイはどこにも云っているのではないが、彼が、社会の現実として、貧と無知とに圧せられている大衆の間では、小市民風な感情の上で美しいもの、尊いものとして描かれている家庭だの、母と子の関係だのも破壊されて、その粉々の破片が心を痛ましめる形で散在することを余儀なくされている事情を見ぬいていることがうかがわれるのである。
ゴーリキイは子供の時分からその穢れた環境の中で、手当りばったりな乱れた男女関係を目撃して育たなければならなかったのであるが、それによって彼の性的生活に対する明るさ、健康さ、肉体的な一時的結合以上のものを求める欲望はゆがめられるどころか却って強いものとされていることが分る。この面においても、彼が少年時代から自分の置かれた周囲と自身との関係をはっきり見極めようとする気質を持っていたことを示している。だが、彼の全生涯に消すことの出来ない輝きの一点として保たれていためずらしい「智慧のあるおばあさん
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