人の女として、何か他の要素がそこにあることを感じる。若し、トルストイがワルワーラのような母を持っていて、「幼年時代」を書いたとしたらばどうであろう。「アンナ・カレーニナ」の中で大きい役割を課せられている幼いセリョージャを、作中で成長させて死んだ母アンナの生涯を回想させたとしたら、作者トルストイはどう描いたであろうか。トルストイはきっと、母の人生に対する態度によって影響された自身の心理について多くを語っただろうと思われる。トルストイの世界観の中では、母と子の関係が人間生活に於ける宗教的な道徳的償いという意味をこめて、歴史的には封建的家長制度的な固い絆でくくりつけられている。このことは「アンナ・カレーニナ」にも現れているし、「戦争と平和」の中に、アンドレー老公爵と息子アンドレー、公女マリアとの関係等にもきびしく描かれている。ゴーリキイが「幼年時代」で母を書いている書きぶりは、五つで、もうあんまり母にかまわれなくなっている子供が、その母としてもその子としても避け難い力で、騒がしい無知な下層民の群の中に押しやられている姿として描いている。長い「家庭生活、家庭教育」で囲われたことのない、歩き出す
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