拒絶した。
「私は実際彼を愛したか? 否《ノン》。いやもっと正しくいえば、私は彼の私に対する愛を愛したのである。けれども私は愛において不実であることができないので、自分でも彼を愛してるように感じていた。」
 この夏、マリアは八年ぶりでロシアへかえり、ポルトヴァの父の家に冬まで滞在した。
「これまで愚かしい生活をして来て自分の好きなまねばかりしていたが、絶えず物足りない心持で、決して幸福でない」父。マリアの養育のためには一スウの金も出さないのに、成長した美しい娘の上に威力をしめそうとする父。まだ美人といえる若さだのに、不幸な結婚生活のために神経質になってしばしば発作をおこす母《ママン》。ロシアからパリへかえって来たと思うと、もうニイスへ行くために「三十六の手荷物のために死物狂いになるまで私を働かせる」母《ママン》。「おお! 私は抑えつけられるようだ。私は息がつまりそうだ。私は逃げ出さねばならぬ。私は堪えられない[#「私は堪えられない」に傍点]※[#感嘆符二つ、1−8−75] 私はこんな生活をする為に生れたのではない。私は堪えられない!」「仕事をする機会が私を避けている!」「私は学問をした
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