マリア・バシュキルツェフの日記
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)別荘《ヴィラ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符二つ、1−8−75]
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暑い日に、愛らしく溌剌とした若い娘たちが樹かげにかたまって立って、しきりに何か飲みたがっている。ああ、これはどうかしらんといって、樹かげの見捨てられた古屋台の中から、すっかり気がぬけて、腐っている色付ミカン水の瓶をひっぱり出して来て、それを分けて飲もうとしているとき、もし、傍に人がいて、五六間先の岩の間に本当の清水がこんこんと湧き出しているのを知っているとしたら、その人は娘さんたちに向って何というだろう。一寸一寸、そんなくさったまがいものはおやめなさいよ。そこに清水があるのよ。そこへ口をつけてたっぷり喉のかわきをおなおしなさい。そういわずにはいられないにきまっている。
私はこの間「恋人の日記」という映画を見て、全くそういう心持から、声が出そうになった。ああ皆さん、これは、随分こしら
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