では彼女の少女時代からつきまとっている貴族主義、壮美の趣味がつきまといつづけた。「出あい」を描く一方で、マリアは刺客におそわれている「シーザア」やキリストを葬ったばかりの「二人のマリア」の大作を描こうと勢いこんでいるのである。

 十五歳で、辛辣に小癪にも人類への軽蔑を表現しているマリア。同時に「人は何故誇張なしに話ができないのだろうか」と苦しんでいる正直なマリア。十六の正月はロオマで迎えられた。この四ヵ月にわたるロオマとネエプルの旅の間で、マリアの第二の愛情の対象となった伯爵アントネリオの息子ピエトロと相識った。ピエトロはマリアに魅せられ、マリアもつよく彼にひきつけられて、この一八七六年の日記は、寸刻もじっとしていない若々しい激情の波瀾と、まじめさとコケトリイとの鮮やかな明暗が一頁ごとに動いている。ロオマの謝肉祭《カアナバル》のときの色彩づよい記録。こまやかに書かれているピエトロとの対話。マリアの若い娘らしい嬌態は、十六の少女のやみがたい愛への憧れと同時に目かくしをされ切ることのできない性格的なつよさ、冷静さの錯綜から生じている。ピエトロとの結婚がロオマの社交界で噂されたが、マリアは
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