あるまいかと思った。
 私の下の級で「Aさん」は文章達者な人だと云う事が話に出た事があるし又その文章を見せてもらった事も有ったが、色の淡い、おっとりした淋しい筆つきの人だと云う事だけは知って居たけれ共顔は知らなかった。
 私はきっと彼の人だと思った。
 どうしても聞かずには置けない様な気がして傍に居る眼のギロリとした、いやな声を出す人に、
「Aさんって云うのはどんな方?」
ってきいた。
 その人は変に笑いながら、
「そらその方
と私のそうだろうと思って居た人を指さした。
 教えてもらって別に口を利くでもなくお互に悲しい様な笑をなげ合ってその日はそのまんま帰って仕舞った。
 それから私達は誰が何と云おうとも離れられないほど親しい友達になったのである。
 そこの学校を出て私が他処の学校へ通う様になってもM子の引けの後《おそ》い日にはわざわざまわって行って一緒に帰った。
 M子が学校を出て仕舞ってから一年に一度も会わない時もあったしその間手紙の一本もやり取りしなかった時さえ有ったけれ共その次会った時には昨日会った時と同じ何のこだわりも無い気持になれた。
 始めの間は只親しいと云うのに過なかっ
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