皆は私を変り者あつかいにしたし、自分も亦、その人達の群からは「変り物」になる事を欲して居た。
 何でも秋であった。
 私は少しほか人の居ない静かな放課後の校庭の隅に有る丸太落しの上に腰をかけて膝の上に両手を立ててその上に頬をのせて、黄色になって落ちた藤の葉や桜の葉を見つめて居た。
 その時私は菊の大模様のついた渋い好《い》いメリンスの袷を着て居たと覚えて居る。
 そうして静かな中にじいっと一つ物を見つめて居る事は今になってさえ止まない私の気持の良《い》い胸のときめく様な気のする事である。
 私はややしばらくの間、そうやって居た。
 胸の中には何とも云い知れぬ喜びと平和な思いが満ち満ちて人が見たら変だろうと思われる微笑を唇に浮べながら地面を見て静かに藤棚の下を歩き廻って居た。
 それまで一寸も気のつかないで居た事だけれ共さっきまで私の居たすぐわきに下の級のものが五六人かたまって低い声で何か話して居るのに気がついた。
 その中で一番背の高い黒っぽい長い髪を房々とさげた人が気になる様に時々私の方を見ては何か云いたい様な様子をする。
 私は直覚的に若しやあの人が「Aさん」と云われて居る人じゃあ
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