M子
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)交際《つきあい》
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今消したばっかりの蝋燭の香りが高く室に満ちて居る。
其中に座って一人ぽつねんと私は或る一人の友達の事を思って居る。
其の人の名はM子と云う。
年は私とそう違わない。
大柄な背の高い髪の毛の大変良い人だけれ共色の黒いのが欠点だと皆知ってるものが云って居る。
面長な極く古典的な面立がすっかりその性質を表わして居る。
ほんとうのフトした事から交際《つきあい》しはじめてもう六年ほどにもなる今日、昔よりも尚親しい感情がお互の心に通って居る。
友達などと云うものは大業に紹介されたりなんかしたよりも何時《いつ》と云う事はなしに親しくなった人同志の方が久しく一致して居られるものだと見える。
M子も私も小さい時に一つの学校に居た。
丁度その学校を出ようとする前の年頃から年よりは早熟《ませ》て居た私は、仲間とすっかり違った頭になって居たので親しい人も出来ずジイッと一つ事を思いふけったり、小供小供した事をしてさわいで居る仲間の者達の幼げな様子と自分の心を引きくらべて見たりして居た。
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