たけれ共今はもう、私は何でもM子の事をかばってやる様な位置になった。
そう云う気持になった。
家庭的の事情からM子の生活状態は種々に変った。
或時は思いきり華かな中に、或る時は涙の出るほどじみな中に――
そうして私の喜ぶ事は度々の生活状態の変化はあっても、その素直な、生一本の気持が失われずに有る事である。
おっとりした、深々《ふかぶか》と物をむずかしく考えない、口のはっきり利けない様な様子がM子の最も良い性質を表わして居る。
M子の好い処はその生一本の気持にある。
私より身なりの大きいM子が重そうな髪をうつむけながら低い声で何か相談をしかける様子を今も思うのである。
M子の彼の良い性質は此度の生活状態の変化にも失われる様な事は有るまいとは思う。
そうは思いながら私の心には云いがたい一種の不安が満ち満ちて居る。
私は或程度まで低級な人達の間に入って苦痛なしに彼の人が暮せるかどうかと云う事である。
ああ云う性質の人が甚しい苦痛を受けた時ほど情ないものはない。
只自分を意味もなく卑下する事ばっかりを教え込まれるものである。
只むやみと卑下する人の心を思うと私は何だか
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