無数の箇性的差異を包含して居る通り、人類と云う響は又其の内に、箇々の民族的差異をも暗示して居ります。
其故私は、国民的名称の差異に意識無意識に左右された批評は好みません。私は米国人とその名を以て、その約束的符牒で彼等を呼ばなければなりませんけれども、其に対する心持は、地上の人類の一群に起った現象として無我に面して行きたいと存じます。人類の生活、文明史に現われる総ての事件は、その心持で接せられるべきではないのでございましょうか。殺す人間も殺される人間も、等しく人間と云う点に於て切れない血族でございます。世界的悲劇の発生も、その血腥い過程とよりよき芽を育てようとする結果とを通して、一つの重大な、沈思すべき「現象」に対する平静と公正とを以て向われとうございます。
地上に起る総ての事に、よき魂は無関心であってはなりません。無智であってはなりません。流転して止む事ない心の微妙な投影は、其を洞察しつつ、理解しつつ愛に満ちて統御する叡智の高度に準じて価値つけられますでしょう。認識の拡張は人類に冠を授けます。
然し認識の内容は多くの未知を、或は未完成の存在をも、今日の私共の裡に承認する筈なのでご
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