錯綜に就て、人は静かな考慮と洞察と、同情とがなければなりません。人間の持つ尊厳と光彩と天才とは彼等の上に燦然と輝きますでしょう。然し又他の一方には、其等の悠久な軛であるあらゆる「あるべきもの」の消極も存在して居ります。此の二方面の力の消長に、人は聰明でなければなりません。一面から申せば、彼女等の苦しむ事と、私共の苦しむ事とは同じでございます。そして総ての人間が苦痛と思う事なのだと云う事になるのでございます。
 斯様に書きながらも思う事でございますが、他国人が他国人を批評する時、兎角陥り易い欠点は、或人間の群が、或特定の圏境の裡に発達したもの、と云う心持で批評の対象国民を見ずに、その人間達の持つ国名の響で、批判的気分の大半を埋めて仕舞う事だと存じます。
 箇人と国家とは離れ得ないものでございます。
 然し、「米国人」と申す天[#「す天」に「ママ」の注記]外人の存在ではないのでございます。彼等の構成した国家の、地理的国境と、政治的体系と、彼等の始祖からの気質《テムペラメント》の傾向に種々の変遷を経つつ今日に至った一群の人間なのでございます。名は約束でございます。日本人と云う総称が、其の裡に
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