目のさめるような事がなければ息がつけません。
 従って彼女等は、濃い色と、強い音調と香気と、強い興奮で、轟々と鳴りとどろく、大都会の騒音に辛くも反抗するのでございます。
 其故同じアメリカでも、場所によっては、決して騒がしい女性許りではございません。
 しっとりと、草の葉のさざめきに耳を傾ける人もございます。
 私は、彼女等が圏境から与えられた騒躁な、騒躁でなければ居られない神経と云うものに、人間はもっと深い同情と思慮とを費やすべきだと存じます。
 何故なら、此は、只彼女がそうなったと云うのみに止らず、そう云う圏境は、従ってそう云う文明は、正しいものか、正しくないものかと云う大きな問題に逢着すべきだからでございます。
 又気焔を上げそうになります。真個にもう此は此処までに致しましょう。
 御ゆっくり御やすみ遊ばせ。
 静かに更けて行く湖面には、小さい螢が飛んで、遠い沼に、かえるが長閑《のどか》に喉をころがして居ります。
[#地から2字上げ]六月十七日

       雑信(第二)

        (其一)

 C先生。
 雑信第一に於て、私は自分の仕事に対する近頃の心持を御伝え致し
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