はなされ、自分の仕事にあくせくと追い廻されながら、せま苦しい只一室を巣として、注ぐべき愛をことごとく幽閉して過す毎日は、遠く故国に自分を待って居る、「彼の女性」に対して、云うばかりない懐しさを抱かせるでございましょう。
 荒んだ感情を持たない者は、恐らく十人が十人、郷愁に掛って居ると申せましょう。
 別れて来た愛人を想う、愛すべき若者になって居ると思います。
 従って、彼を中心として、後方に注がれる憧憬は、反映して、彼の目前に現われる物象への憧憬となり尊敬となるのではございますまいか。
 素直にその心持を受入れる人は、活溌な微笑の所有者であり、明快な理智の把持者である対象に、人間らしい心持で、いいなと思います。が、従来多くの男性を圧殺し続けて来た、所謂男らしさに心の歪けさせられた者は、憧憬をねじ向けて、嫌厭に突込んでしまいます。そして、ちっそくしながら、地上あらゆる女性に向って、死物狂いの呪咀を浴びせるのではございますまいか。
 其処で、私は、自分達と同じ女性であるという点から、一層公平に、彼女等の讚すべき美くしさと、尊さとを称すと倶に、彼女等の持って居る人間らしい欠点に就ても静かな省
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