よりは勿論よろしゅうございます。働かない人間より、働く人間、見識のない人間よりある人間。
 先生は、ハドソン川から紐育《ニューヨーク》へ入る途中の――島に炬火を捧げて虚空に立って居る自由の女神像を御存じでございます。
 又、コロンビアの大図書館の石階を登りつめた中央に、端然と坐して、数千の学徒を観下す、Alma Mater をも御存じでございます。
 彼女等は皆此の広大なアメリカの精神の中枢となって生きて居ります。
 こちらの「女性」と云う概念は単に「女王」としてのみならず、又神とまで尊敬されます。
 けれども、気をつけて御覧遊ばせ。
 此等の女性最高のシンボルである彫像は、一体何で出来て居りますか、そしてどんな色彩をほどこされて居りますか?
 彼女等は決して、一槌の鎚でみじんになる大理石では作られて居りません。
 時間と云うものに、極力抵抗した硬金属で作られて居ります。
 そして、その上には、更に、燦い黄金をもって包まれて居るのでございます。
 先生
 ルネッサンス式の壮大な、単純と優雅とを調和させた大建築の前面に、厳然と立つアルマ・マターは、何と云うよき場所に置かれたのでございましょう。が、又このよき場所であるが故に、一層俗悪に見えるその黄金が、何と云う幻滅を感じさせますでしょう。純白な面に灼熱した炬火を捧げて、漂々たる河面から湧き上った自由の女神像こそ、その心持につり合って居りますでしょう。
 それだのに、何故、私たちの目前にある其は、此れも亦醜いと云う点からさほど遠くない金鍍金で包まれて居るのでございましょう?
 アメリカの婦人は、神位にまで近づきます、けれども、「黄金の死」を死ぬのではございますまいか、私はこの二つの事実が、こちらの婦人の実生活をかなり辛辣に諷刺して居ると思うのでございます。
 消極の極で暮して来た、否暮させられて来た、日本婦人に対して、生きて弾む生命を持って居るこちらの婦人の価値は、種々な形成に於て或時は余りに過重され、又或時には余りに価値以下に観られて居ると思います。其がどちらの場合に於ても、ロング、エスティメートであるのは明かでございます。
 何故それなら、そう云う誤った観察をされるのだろうと思います。
 此方の婦人と云えば、只一口に、何、アメリカのお転婆女は、男を圧迫して、暴威を振う事ほか知らないのだとけなす人もあれば、否左様ではな
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