時には、うんざりさせてしまうような調子の高い陽気さも彼女の裡にはしっくりと融和されて、女性の強靭な弾力を輝やかせる一色彩となりますでしょう。
 彼女こそは愛すべき永遠の女性として、地上の歓びを生むべきなのでございます。
 けれども、C先生、勿論此は、現存して居る人の一つの型をより強調し、より理想化した私の偶像にすぎないのでございます。
 こういう方向に向って行って居る人は居ります、勿論。けれども、彼女等の周囲を囲繞して居る種々な条件はなかなか、人類の希望する「そのところ」へは行かせません。
 私共の前進に大きな困難があると同様に彼女等も又、多大な努力を要すべき種々な障害を控えて居ります。保守的な彼女等の先輩は、只管に聖句を愛用して、誤解した神聖さで、人間を殺そうと致します。
 薔薇液を身に浴び、華奢な寛衣《ネグリジェー》をまとい、寝起きの珈琲を啜りながら、跪拝するバガボンドに流眄をする女は、決して、その情調を一個の芸術家として味って居るのではございません。
 こちらの婦人の華美と、果を知らぬ奢沢は、美そのものに憧れるのではなくて、一顆の尊い宝石に代る金を暗示するから厭でございます。
 けれども、斯様に、種々の差別を以て生活して居る幾千万かの婦人を透して、持って居る何物かもございます。
 其をあげて見るならば、第一は、積極的な事でございましょう。こちらの婦人と、我が故国の婦人との差は、恐らく、只此の積極と云う一字の差であるのではございますまいか。
 私共の親達は、彼女の少女時代をどうして育ったでございましょう。その処女時代を、その新妻として記憶すべき時代は、彼女の脳裡にどんな美くしく喜ぶべき思い出となって居りますでしょうか。
 私は、自分の母のために、総ての左様である女性の為に、真個に彼女等の受けて来た待遇をお気の毒に思わずには居られません。
 笑いたい丈笑わせられる若い娘が幾人ございましょう。勉強したい丈させられる人、愛したい丈真に愛せる人。其等の人は、我国の女性のうちに幾人あるでございましょう。従来の形式的教育は、総ての外囲だけを強制的に調わせようと致しました。
 そして、その整ったと云う理想の形は、只無暗に人の心の裏を悟るに早く、自己をフランクに表わす事なく、凝と総てを両歯の間にかみしめて、眉を上げたような女でございます。
 女性の持つべき総ての特性を完全に育て
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