たものは蹴落された虎の子のようで、却って計らざる幸運を生涯の上にもつ結果を来しています。
こういう簡単な話の中に語りつくせない複雑な面白い無数の思い出が、母と父との、また母と私達子供らとの生活の中にあります。よかれ悪しかれ大へん手ごたえのある女であった。恐しいところのある女でした。若し時代と境遇とがもう少し新しかったら、母は自分の文学的な才能や女としての烈しい情熱を、きっとまともなものとして生かすことが出来たであったろうと思います。しかも私が深く感慨に打たれる事は、母が自身の矛盾によって、娘の生き方の中に表れている歴史の進歩的な面というものを、理解出来なかったことです。
若い頃の母は小さい子供らを腰のまわりにつけて沢山の洗濯物もしたし、台所でも働いたし、庭掃除もしたし、私の小さい頃の日々の思い出の中には、いつも総領娘である五ツ六ツの私をおだてては、自分の助手にして働いていた生々とした美しい母の面影があります。
母は美人でした。その頃は髪にバラの簪をさしたりして、可愛い写真が沢山ある。ところが欧州戦争後、母も年をとり、経済的な事情もいく分日増しによくなって来ると、母も健康を失いまし
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