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人類中の、少数の人々にとってはいかなる地上的幸福も悲惨も終局、内奥の人格に些の汚点をつけるにも足りないと云う特殊な場合はあります、非常に偉大な人格は、全く独立した人格で、何処にあっても、圏境を超えてそれが素で働いて行くと云うことなのです。
然し、我々は、ざらに、それ程宏大な力強い人格を期待することは出来ません。
境遇の善悪、幸不幸などと云うことは、それによって人格が何等かの影響を与えられるからこそ問題となり得るのです。要点を云えば、境遇と云うのも、単に具体的現象の種々な相自身を指すのではなく――親が無い、極度に孤独だと云うその事実を云うのではなく――その事実に籠っている心理的な暗示の要素を指す事になります。
それ故、若し我々が真個に人間を愛し、女生と云う相互の密接な関係を愛するならば、人とし、女性とし、生くべき心を無にするあらゆる境遇は、改善して行かなければならないのではありますまいか。
その婦人のような場合も、若し、現代の社会に何か違った組織の一つが加えられているならば、もっと異った結果になりはしなかったろうかと思われます。
たとい若し、彼女の最初の婚約が全然絶望的な
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