とではありません。
 ここで、考えは、いや応なく、又、それならばどうしたらよいか、と云う基点まで逆戻りをしなければ成らなく成って仕舞ったのです。
 実際問題として、彼女も自分も共に満足する解決を見出すには、自分は余り無力でした。
 彼女は、今に必要な時気が来れば、きっと結婚することになりましょう、彼女に対して、自分は、幸福を祈る以外の言葉を持ち合わせません。
 人間の生活慾は、物凄い迄に強靭なものです。どうにかして彼女の一生は過ぎましょう――が……私共の考えるべきことはここで終ってよいのでしょうか。
 私は、是非もう一歩、進めたく思います。
 若し、我々が、人生を只食って生きて安わして行く為のみの実在と認めないならば、種々偶然的な境遇の力に支配されて、大切な人間の核心を失って行くものを、已を得ぬこととして傍観する自他の不誠実だけは、極力排けて行きたく思うのです。
 性格の或る傾向が内的動機となって対照との間に生ずる個人の運命は、全く運命で或る程度までは不可抗であり絶対です。けれども、境遇によって、人間の心が生かされ、殺されて行く場合には、疑なく他から加えらるべき何ものかがあると思います
前へ 次へ
全13ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング