ひしがれた女性と語る
――近頃思った事――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)漸々《ようよう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九二一年八月〕
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 最近、計らずも身辺近く見た或る婦人の境遇が、自分に種々の事を考えさせました。
 その婦人と云うのは、もう四十歳を幾つか越した年配でした。けれども、少女時代から、決して幸福な生活のみを経験して来たんではありません。
 僅か十四五の時、両親には前後して死去され、漸々《ようよう》結婚が未来の希望を輝せ始めると、思いもかけず長年の婚約者との間に、家族的な障碍が横《よこた》えられました。
 両親の死後、彼女の新たな保護者となった長兄は生憎、許婚者の父とは政敵の関係にあって、その反感から、どうしても二人の結婚を許可しようとはしなかったそうです。
 そこで、当時の意向では、ほんの当分の方便として、彼女は従来の生活をすっかり改め、幸、裁縫が上手なのを利用して、或る小学校の教師になりました。
 家兄の許を離れ、自己の生活を営んで幾年か経つ間には、何時か、自分達の希望
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