が遂げられる機会もあろうと云うのが、勿論、彼女にとっては唯一つの光明であったのです。
処が、先方の男子は、四五年経つうちに、何か家庭の事情と云う口実で、突然、他の婦人と結婚して仕舞いました。
その翌年家兄は急劇な流行病にかかって死去し彼女は暫くの間に、よかれ、あしかれ、兎に角生活の支柱と成っていた二つの者を一時に失って仕舞ったのです。
この事は、当然、彼女の内心に改革を起しました。
嘗つて、婚約者と結婚をし得る、最少限でも希望があった間は、彼女にとって孤独な生活も、前途に何等の陰をつけませんでした。僅かの給料を唯一の資力として微に支えられて行く生活も、いざと云う時、後で手を延して呉れる者が在る間は凌ぎ得ない苦痛ではありませんでした。が、頼るべき何人も何物も無く、全く一人ぼっちに成って見ると、彼女にとって現状のままを引延して予想した未来というものは、何とも云えない恐ろしいものと成って来ました。
暫の間、圏境の激変に乱れている心の焦点は、それが鎮ると共に、底の知れない将来の不安の上に全力を集注させて仕舞ったのです。
彼女にとって、この根本的な不安を除去するものは、結婚より外に無
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