ものと成った当時、既に、自力によって一定の収入を得る総ての女性間に、経済的相互扶助機関が確立しているとしたら、どうなったでしょう。
収入の幾割かを皆が積立てて、その適当な運用、利殖によって、組合員の老後や病時の安定が保障され得るとしたら、恐く彼女はあれ程生存の不安に追立てられは仕なかったでしょう。
従って、第一回の恐ろしい失敗は或る程度まで未然に防がれた可能があり、同時に幾年かのより長い経験で裁縫なら裁縫の技術が練磨されたと共に今回のような不幸に遭遇しても、全く、人間としての希望の上に立って、根底ある生活を持続し得る信念を与えられたのです。
勿論、右のような経済的制度、基礎的団結のみが箇人の価値を、急激にあげようとは思いません。
然し、例えば彼女のように、或る程度の人格的覚醒と同時に、伝習的虚弱さを具有する今日の多数の女性の為には、少くとも、生活の根本動機を自己の心意に置き得る丈の役には立つと思います。
良心の疚《やま》しさを、種々な自他の慣習的弁護で云い繕いながら、粗野な言葉を許されれば、幾十人の女がしたように、糧食と交換に「女性」を提供する、「気」にならずにはすむ訳です。
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