生活を営もうとすれば、方法などは、いくらもあると思われます。
第一、嘗て、小学校に教鞭を取って経験のある彼女は、何故又、小学校で女生徒のよい指導者にはなれないのでしょう。
よし又、教員として技量に自信を持たなければ家政婦としても、家事助手となっても、生きて行く道は数多あります。方法が見出し難いと云うのは、寧ろ自己弁護であるようにさえ思われました。詰り、良人に対する真心の愛は案外薄弱なもので結局第三の良人に赴こうとする前提として、一種の概念から発した口実ではあるまいかと思わずにはいられなかったのです。
私は、謹みながら、率直にその感じを話した。が彼女の困難と云うのは、私の理解したそれとは違っていたのが分りました。彼女の感じるのは、当面の生活を営んで行く方便の見出し難いことではなく日に日を消して行く間、いつか必然起る人生のいざという場合を予想すると共に心を解かさずには置かない、人心の頼り難さであったのです。
仮りに彼女が、或る家の家政婦と成ったと想像します。彼女は、きっと親切や勤勉を抽《ぬき》んじてその家の為に努力するでしょう。
然し、人間が何時病気にかからないと断言出来ましょう
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