。若し、それが幸一月や二月位の病患ならば自身の貯蓄を費し尽しても、或は幾分かが雇主の負担と成るにしろ、全然耐ゆべからざるほどのことではないかもしれません。けれども、それが、幾年も幾年も継続する種々な重い慢性病の一つだったら如何でしょう。
 これは、私自身の周囲を一目見ても判断はつきます。月々の月給を、適当に支給する丈《だけ》の資力はあり、全くの必要からでその人の助を期待している家庭では、心こそ同情に燃えながら、半歳の療養を完全に与えることさえ、実際には不可能なことです。
 又たとい、如何程経済状態は良好であるにしろ、今日、そう云う階級に属すあらゆる人々が、彼等の被雇人に対して、全く彼我を忘れた愛で、十年十五年の医療費を提供すると思えるでしょうか。
 死ぬにまで、苦々しい施恩と卑下に縛られなければならないと云う考えは、心を暗くします。
 他人の世話に成らない為に、養老院と、慈善病院があるではないかと云う人が無くはありますまい。けれども、私共が自分自身を、その裡に置いて考え、感じた時、あそこは果して快い平安な最後の場所でしょうか。
 家族制度によって、過去幾百年来、全然、子と呼ぶ者を持たな
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