く絶縁した生活を講じなければならない状態に成って来たのです。
 夕方、山を眺めて涼みながら、私共は随分種々のことを話し合いました。
 彼女が、どんなに故良人を愛慕しているかと云うことは、些細な言葉の端々にもうかがわれました。若し出来るなら、真個《ほんと》に一生彼の妻として終始したいと云う彼女の希望には微塵《みじん》も嘘はありません。
 然しそれなら、恒産も無く、老後を扶養して呉れる縁者もない彼女は、今後某々未亡人として、立つべきどんな生活方針を見出してよいかと云う、実際問題になると、考えは荒漠とした処へ迷い込んで仕舞うらしく見えました。亡夫を愛する彼女は、嘗て一度目の失敗の後結婚に対したように半事務的な態度で、第三の良人を予想するには堪え得ないのです。然し、周囲が最善の道として彼女に示す処は、唯その一路であると同時に、彼女自身も若しそれを断然拒絶するとしたら、果して後には何が、よりよき生活として見出されるだろうかと云う危惧を払い得ないのです。
 始めそのことを聞いた時、第一自分の胸に来たのは、何故それ程、生活方法を見出すのが困難なのかと云う鋭い反問でした。
 一人の女性が、真実に独立の
前へ 次へ
全13ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング