ことを示している。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、いかにもルネッサンス開花期の人間才能の典型であった。当時の芸術科学の分野でほとんど万能に近かったと語られている。今日われわれの地球をとびまわっている航空機の発明もレオナルド・ダ・ヴィンチによって着手されていた。この事実は、歴史的[#「歴史的」に傍点]に評価されている。だけれども、レオナルドが、彼のフロレンスの仕事部屋で、人間をのせて飛ぶことのできる機械について力学的な計算をし、製図し、製作しているとき、彼の胸には、どういう感想があったろう。ギリシア神話にあるイカルスの冒険を、科学の力で、人類のすべてにとっての冒険ならざる可能として実現してみようとする思いだけがあっただろう。人類の視界の拡大というひろやかな想像に動かされただろう。空をとぶ大きな鳥のたのしそうに悠々とした円舞を見あげて、あんな風にして自分たちも自由に空をとんでみたいとあこがれる人類の感情を、ギリシア人が、若々しい人類の歴史の若年期を生きつつ、自分たちの社会の伝説にとりいれたことはいかにも面白い。同時に、歴史はそのときにつくられつつあるものだ、という証拠が、イカルスの物語に証
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