なぜ、それはそうであったか
――歴史・伝記について――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)翔《と》びたい

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)歴史的[#「歴史的」に傍点]に評価されている。
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 私たちの日常生活でのものの考えかたの中には、随分現実よりおくれた型が、型としてはまりこんだまま残されていると思う。たとえば歴史というものの理解についても。――
 一般に歴史ときくと、まず昔のこと、と思う。歴史的といえば、昔より今までの間に起ったことで、社会的に人間的に一つの峰をなすような過去の事件という風に思う。歴史はいつもすぎたこととして感じとられ、今日という今の刻々が歴史そのものであり、しかも今の刻々には、過去のどの時代ともちがった条件で、人間の主動的な善意、熱意による変革を加えることのできるおどろくべき可能がひらかれているという事実が、割合実感されていないことは残念だと思う。
 いつの時代でも、最も人間らしいぴちぴちした理性と情感とをもった人々は、柔軟でつよいその意力で、歴史というものを、彼等の生きたその時代の今の上
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