くてさ! 金もなくてさ!
 あかんべーだよ」
[#ここで字下げ終わり]
 雪のかたまりを男はけとばした。
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「いくら死なそうたって病気にはならねえし、あいにく竹庵どのにはナ、これでも生れてから一度だって御やっけえになった事はねえんだ!」
[#ここで字下げ終わり]
 目には見えないでもすさまじい音をたてて頭の上で鎌をふりまわして居る黒い影のあるのを感じた男ははかなげにこう云いながら立ちどまってぐるっとあたりを見廻した。
 うす黒い乳っくびの様な形のものは男の囲りに無数に□[#「□」に「(一字不明)」の注記]って来た。
 前にだらりっとさげた布をあげると目玉のない鼻のないものが出てガタガタガタと笑ってはひしひと男にせまって来た。
 その呪われたものの様な影の次にはまっしろな雪がキラキラ闇の中に光って居る。
 あくんで居る男の足はいてついた様になって頭に血がドカドカとのぼって舞った。
 のぼりつめて行きどこのない血はその小っぱけなろくでもない頭の中をあばれまわった。
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「こんちく生!」
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 おどり上って男が叫ぶと一緒に頭の上
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