ながめながら、しっとりと重い髪の毛のひだを撫でて居りますと、包まれた様に柔かな心の底から、何がなし光がさし出て来る様な気が致します。
 この上なくしずまった心で貴方様を思って居るのでございますよ。
 けれどもまあ考えて見ますとふしぎではござんせんか、毎日毎日お目にかかって居る時は、別にこれぞと云って、御なつかしくもお話ししたいとも思いませんでしたのにねえ。
 下らない事を云い合って、白い眼をして居る群からはなれて、悲しみの多い物しずかな目を御送りなさる貴方様がおしたわしいのでございますよ。
 悲しみと申しますものは尊いものでございます。
 目に堪えられぬ涙の熱さを知らぬ人は、神様が――私は神様のいらっしゃるのを思いませんですけれど、はてしない宇宙に満ちた偉きな力を神様と申さずにほかによい言葉がございますでしょうかしら――人の心をやわらげるためにおそなえなすった得がたい宝を見忘れた人でございますまいか。
 悲しみは、世の中のすべての人をいつくしむ心をお与え下さいます。
 幾重にも幾重にも被われた真の物の尊さを教えて下さいます。
 どなたの御目にも私は、豆蔵みたいにうつって居る事でござんし
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