たより
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から4字上げ]五位鷺[#「五位鷺」は底本では「五位鷲」]の
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いきなり斯うした手紙をさしあげるのを御許し下さいませ。
これを手に御取りなすって、貴方はきっとオヤオヤと御思いなさるでございましょうねえ。
悪口を云い云いあっちこっち泳ぎ廻って居る私を思い出しなさる事でございましょう。
今日の今まで私は今斯うやって貴方へのおたよりを書こうなどとは夢にも思って居りませんでした。
けれども、夕暮にさえなりますと、私の心に夕栄の雲の様に様々な色と姿の思い出が湧きます中の一つが、とうとう斯うやって、筆をとらせたのでございます。
お覚えでいらっしゃいましょう。
冬の落日が木の梢に黄に輝く時、煉瓦校舎を背に枯草に座った私共が円くなって、てんでに詠草を繰って見た日を。
安永先生が浪にゆられゆられて行く小舟の様に、ゆーらりゆーらりと体をまえうしろにゆりながら、十代の娘の様な傷的な響で、日中に見る夢の歌を誦していらっしゃった時、私の左の向うに座って居らっしゃ
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