日放送されたラジオニュースは、竹内被告の言葉から共産党の煽動によるものでもなくというところを削除していた。
 公判第一日からきわめて受動的な立場にあった検事団は、第四回公判(十一月二十五日)のこの日一つの計画的な態度をもって出廷した。川口検事が立って、(一)検察側はだんじて拷問、人権蹂躙を行っていない。(二)虚構誇大、事実をまげて検事裁判官、裁判所を誹謗し、演説会で宣伝する。これは侮辱、名誉毀損、恐喝、恐迫等の犯罪を構成する。適当な機会に断固たる処置をとりたい。(三)数十名の弁護人ならびに三分の二の傍聴人により法廷を制圧している等の諸点をあげて示威した。
 裁判長「法廷を制圧しているとはどんな意味か。」
 川口検事「多数を占めているとの意味です。」
 裁判長「制圧しているとは不穏当であるからとり消されたい。」
 川口検事「不穏当と認められるならば取り消します。」
 ところが、午後の法廷がひらかれると、この日も思いがけない事態が発生した。被告につづいて各主任弁護人の陳述に入ったとき、竹内被告の主任弁護人は誰かという問題が起ってきた。竹内被告が裁判長の問いに答えていったことばは次のようであ
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