る」に傍点]という検事の言葉におびえたわけもわかる。
 第一回の公判廷において、被告とともに公訴とりさげを主張し、あるいは、法の公正と人権擁護のために立ったのは、自由法曹団の弁護人ばかりではなかった。弁護士界の長老である正木、長野、和光、吉田などをこめる十一名の弁護士がこの公判に参加している。これらの弁護士団は、「本件の如き憲法や新刑訴の趣旨を蹂りんしているのではないかと被告がすでに思っているような事件においては」「法令が適正に運用されているかどうかを注意し、いやしくも非道、不正を発見したときにはこれが是正につとめなければならない。これは個人の被告人がいかなることをしたかということを離れて、公の公共的な立場において国家のために監視しなければならない。これがわれわれ弁護士の使命である。」「弁護士の本質は自由であり、権力や物質にとらわれてはならない。あに権力のみにかぎらない。世評などに対しても必ず左右されてはならない。」(長野弁護人)「司法権の最も大切な、重大な問題としては検事の不法取調べという問題がおこっている。こういうことを果して看過していいかどうかということについては、吾々は深く憂う
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