れなかった一人」として次のことをのべた。「お前がたよりにしている石川は偽証罪で逮捕してやる。本調査を妨害すれば、誰でも逮捕するだろうといった。この時私は顔色が変った。そうなったらどうしよう。白を白だといって偽証罪で逮捕されるなら、俺の白は誰が証言するだろう。そう考えると気持が弱くなってきた、」と。
 被告たちは、このような精神的苦悩のうちにあつい夏じゅうを獄中に過した。林弁護人は弁論中、彼らは「あくまで重要犯人であるとして被告人相互の連絡を防止するという意味で、窓には板をはり、わずかの硝子戸しかすきまがなく、ほとんど日のめをみることができない。また、一切の書物は刑務所備えつけのものすらよむ自由を与えなかったのである。さらに、われわれがゆく前には運動すらも、監獄法によって所定されている運動すらも、人手がないというので絶対に許されておらない、しかも外部からの面会、差入れは絶対に禁止されていた。」(林弁護人陳述、速記録による)このことは、おそらく被告たちが六法全書さえ読むことができなかったかもしれないことを意味する。被告たちが、新刑事訴訟法について知らず、認定でやってやる[#「認定でやってや
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