ているような落付かなさに見えた。手伝いらしい女が膝をついて、お茂登の丁寧な挨拶に、あっさり、
「どうぞお二階へお通り下さい」
と云った。
「階段はそちらですから」
遠慮がちにお茂登がのぼって行って見ると、六畳一間の両側についている腰高窓をあけっぱなした風通しの中で、学生服の男がぶっ倒れたうつ伏せの姿で睡っており、丁の字形に入口の方へ脚をのばした若い女が、窮屈そうなお太鼓の背中を見せて、これもうつ伏せになって眠っている。三尺の床の間には、五日前村を出るときかいた源一の寄せ書の日の丸旗やそのほか軍人の手廻りらしい茶鞄の荷物が積まれている。
坐布団と茶をもって現れた女は、人のいい表情で二人の寝姿を顧みながら、
「この方々も大分遠方から今朝五時にお着きました」
と云った。
「どうぞ御遠慮なくあなたもお横におなりませ」
お茂登は、西側の窓へ背中をもたせかけ、出された茶を啜りながら、何か張りつめた心持で、脚をのばす気にもならなかった。安宿でもない、さりとて普通ではないこの二階の遽《あわただ》しい空気が、今朝からお茂登のふれて来たあらゆるところに漲っていて、落付けないのであった。
やがて、下
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